この年齢になれば、誰しも記憶の衰えはあるのだろうが、自分でも呆れた事例があったので、ここに記しておく。
ワイングラスやティーセットなどを入れておく食器棚があるのだが、そこに十二支の飾り物が置いてある。土拵えの焼き物で、着色がしてあるが、1.5㎝✕1.0㎝ほどのサイズだから、実に小さい。もっとも、十二支すべてがあるわけではなく、家族の生まれ年の丑、辰、巳、亥のみである。
いつも置いてあるから、その存在をまったく意識していなかった。ところが、昨日になって、突然、それがどうしてここにあるのかを、まったく忘れていることに気づいた。お正月に、和菓子屋で貰ったことだけは覚えているのだが、その店がどこにあり、どんな菓子を売っていたのかが、まったく思い出せない。
その店では、毎年、その年の十二支の飾り物を配っていたのだから、少なくとも四度は足を運んでいたはずである。ところが、その記憶が出てこない。
愕然として、古い手帳を引っ張り出してみた。1980年代から90年代、初詣に浜町の水天宮にしばしばお参りしている。これは、水天宮に安産祈願をしたので、その御礼参りの意味もあったのだと思う。
それでも、なかなか思い出せない。人形焼の店の記憶しか出てこない。そこで、いろいろ調べてみて、やっとわかった。店の名は壽堂、菓子の名は黄金芋(こがねいも)である。そこから、記憶が一遍に甦った。
戦前からの古いたたずまいの店で、板敷きのところに帳場があり、そこで黄金芋を商っている。その黄金芋だが、焼き芋の形に見立てた茶色い薄皮の中に黄身餡が入っている。皮は焼いてあるようだが、ニッキがまぶしてある。それが、一つずつ黄色い紙に包まれている。素朴だが、なかなかおいしい。その味までが、懐かしく思い起こされた。
なぜこの店に行かなくなったのか。水天宮に初詣のお参りすることがなくなったためかもしれない。90年代の後半、どういうわけか、どこの神社も人で溢れかえるようになり、行列に並ぶのが大嫌いなので、それで浜町まで足を運ぶのをやめにしたのかもしれない。
Yahooで検索すると、壽堂は変わらずに営業しているようである。黄金芋を買い求めに、また行ってみようかと思っている。正月の十二支の飾り物は、まだ配っているのだろうか。