雑感

モンタルバーノ

投稿日:2021年10月26日 更新日:

ケーブルテレビの契約をしてから、ずいぶんと経つ。当初は、クラシカ・ジャパンの番組視聴が目的だった。ヨーロッパ最新の演奏会、オペラ、バレエの公演を、居ながらにして見られるのが楽しみだったのだが、昨年の10月で配信中止になってしまった。赤字が原因なのだろうが、その根本にはクラシック音楽愛好者の減少があるように思う。

ケーブルテレビの余禄は、海外のミステリーを視聴できることで、AXNミステリーというチャンネルを楽しんでいる。
英国BBC制作のものが図抜けているが、それは伝統の厚みによるのだろう。日本の貧弱な脚本のテレビドラマでは、まず太刀打ちできそうにない。役者の能力も大違い。舞台で鍛え上げられた演技の質は、タレントと称する日本の雑魚どもには及びもつかない。

ミステリーというよりは、刑事物というべきかもしれないが、イタリアの「モンタルバーノ」が、大のお気に入りである。
イタリアの著名な作家、アンドレア・カミッレーリ(Andrea Camilleri)の原作で、内容・構成が、驚くほどしっかりしている。
シチリアが舞台で、その架空の町ヴィガータの警察署長モンタルバーノが主人公で、毎回、さまざまな事件が複合的に起こる。
副署長格で女好きのアウジェッロ(ミミ)、温厚な年配刑事カルミネとその跡を継いだ正義感にあふれる息子ジュゼッペのファツィオ父子、シチリア訛り丸出しの巡査カタレッラ、遠距離恋愛の恋人リヴィアなどが、主要な登場人物で、彼らの人間模様が実によく描けている。時折、マフィアの一家も現れるが、決定的な対立に到らないところは、シチリアゆえの、何かしらの配慮が働いているのかもしれない。
規則に縛られ、万事に生真面目すぎる日本とは違って、イタリア的ないい加減さにあふれているのが、実に心地いい。

「モンタルバーノ」が評判になったので、そのスピンオフともいうべき「ヤング・モンタルバーノ」も、後で作られた。ヴィガータの署長として赴任したばかりの、若き日のモンタルバーノの活躍を描いたものだが、これもよく出来ていて、まったく不自然さを感じさせない。

シチリアの風光の美しさにも圧倒される。ギリシア時代の遺跡や古い建造物も多く残されていて、それを見るだけでも楽しい。
イタリアは、おそらく四、五回は訪れているが、ローマから南には行ったことがない。行く機会がもてるのかどうか。

これを見るもう一つの楽しみは、出てくる食べ物にある。海辺のレストランの魚主体の料理は、みなおいしそうである。だが、こちらの食欲をもっとも刺激するのは、お菓子とコロッケである。

お菓子は、カンノーリという。筒状に揚げたパイ(?)生地の中に、リコッタチーズの甘いクリームをたっぷり詰め込んだもので、モンタルバーノの天敵ともいうべき、でっぷり太った監察医の大好物になっている。実にうまそうなので、何とか食べたいものだと思っていた。
池尻大橋の菓子店で売っていると聞いて、すぐに出向いたのだが、気取った装飾がなされていて、テレビで見た大ぶりの素朴な菓子とは、まったく趣が違う。すっかり高級洋菓子に化けていて、味は悪くはないものの、大いに不満が残った。
その後、東京駅地下街のEATALYという店で、カンノーリを発見した。想像していた味に近いが、シチリアと同じなのかどうかはわからない。それでも、何度か購入して食べた。しばらく行っていないが、いまでも売っているのかどうか。カンノーリは、一般には、映画「ゴッドファーザー」で知られるようになったらしい。

もう一つのコロッケだが、アランチーニという三角形の巨大なライスコロッケである。こちらは、モンタルバーノがうまそうに食べている。
アランチーニは、新宿デパ地下のイタリア惣菜店でも売っているが、丸い一口サイズの大きさで、印象がまったく違う。
そう思っていたら、名古屋の大須観音の近くで、その名もアランチーニ・ナゴヤという店を発見した。テイクアウトでアランチーニを売る専門店である。テニスボールほどの丸い形で、三角形ではない。具材には、定番のトマト味のミートソース、ほうれん草とサーモンなどが入っているが、和風味のものもあったりした。学会の帰りに何度か立ち寄ったが、残念なことに閉店してしまった。
最近、南麻布に、アランチーニの専門店が開店したらしいが、コロナ禍もあり、そこはまだ行っていない。
それにしても、シチリアのあの巨大な三角形のアランチーニを、どこかで食べられないものだろうか。

「モンタルバーノ」を見ていて気づいたのだが、イタリアの警察組織はなかなか複雑らしい。国家警察、地方警察のほかに軍警察などがあって、縄張り争いがややこしいらしい。よく混乱が生じないものだと思う。

AXNミステリーでは、「モンタルバーノ」は32話まで、「ヤング・モンタルバーノ」は12話までが放送されたが、再放送の機会はほとんどない。「名探偵ポアロ」「ミス・マープル」など、絶え間なく再放送されるのに、こちらはなぜされないのか。何とも不思議である。作品の質は、右の二作品と同等以上である。
おそらく、視聴率の問題があるのだろう。視聴率が低いとすれば、その理由の一端は邦題にある。「モンタルバーノ~シチリアの人情刑事~」がそれで、こんな題なら、まず見る気が起こらない。「人情刑事」などという愚劣な言葉を入れたのは、誰なのだろう。反省しなさい。原題は“IL COMMISSARIO MONTALBANO”で、直訳すれば「署長モンタルバーノ」になる。「ヤング・モンタルバーノ」の原題は、“IL GIOVANE MONTALBANO”だから、これはほぼ直訳である。

再放送をしてくれないものだろうか。

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