研究

ナマコの本名

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先日テレビのニュースを見ていたら、能登の高級食材であるナマコ(海鼠)が、一昨年の大地震と近年の海水温の上昇との影響により、深刻な不漁に陥っていることが報道されていた。

そのナマコだが、私の場合、まず食べる機会がない。和食の店でも注文したことはない。コース料理に出される酢の物を食べるくらいである。だから、ナマコにはほとんど縁がないのだが、そのニュースを見ていて、思い出したことがある。それが標題にした「ナマコの本名」である。

ナマコの本名はコである。ナマ(生)のコなのでナマコであり、干したコはホシコになる。内蔵の塩辛はコノワタである。だから、その本名はコということになる。もっとも、ホシコは、ナマコの卵巣を干したものだから、その場合のコは卵巣の意味にも解しうる。そのホシコは、三味線の撥(ばち)に形状が似るので、バチコとも呼ばれる。それをコノコと呼ぶ地域もあるというから、その場合はコ(海鼠)のコ(卵巣)の意味になるのだろう。だから、やはりナマコの本名はコだというところに落ち着く。

そこで思い起こすのが『古事記』「神代記」の記事である。アメノウズメの子孫が、猿女君(さるめのきみ)として、伊勢の地でサルタビコを祀ることになる来歴を語る記事である。そこに、アメノウズメによって、志摩地域の多くの海産物が、大君の食膳の料として献納されることになる起源が説かれている。大小さまざまな魚が、食膳の料となることを承知するが、ナマコのみが従わず、そこでアメノウズメがその口を切り裂いたとする話である。私の『古事記私解Ⅰ』(花鳥社)から引用する。

諸(もろもろ)の魚、皆、「仕へ奉(まつ)らむ」と白(まを)す中に、海鼠(こ)白さざりき。しかして、天宇受売命(あめのうずめのみこと)、海鼠(こ)に謂(い)ひて云ひしく、「この口や、答へぬ口」といひて、紐小刀(ひもかたな)以(も)ちて、その口を折(さ)きき。故(かれ)、今に海鼠(こ)の口折(さ)けてあるぞ。

ナマコの口が裂けている理由が説明されている。ナマコはここでは「海鼠」と表記されるが、古来、この二文字でコと訓まれている。古代の漢和辞書である『和名類聚抄』にも、「海鼠 和名古(こ)、似蛭而大者也」とあり、『箋注倭名類聚抄』は、そこにさらに「加熬字云伊利古」と注している。「海鼠」の和名はコで、蛭(ひる)に形は似るが、それよりは大きく、また「熬海鼠」をイリコと呼ぶのだとする説明である。イリコというのは、ナマコを煮干しにしたものをいうらしい。

だから、ナマコの本名はコということになるのだが、それにしても不思議な名だと思う。なお、漢字で「海鼠」と記すのは、その形状からの連想だろう。中国語でも同様に「海鼠」の文字を宛てるが、「海参」とも記す。これは海の人参という意味らしい。英語のsea cucumberはこちらの意味になる。

学問的な内容を含むので「研究」に分類しておく。

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