床に入って落語を聴くと、そのまま安眠できると、このブログのどこかに書いたような記憶がある。
一昨夜、ずいぶん久しぶりに、三代目三遊亭金馬の「蔵前駕籠」のテープを探し出して聴いてみた。その枕で、吉原に粋客が馬で通(かよ)ったりしたので、その通りを馬道と言った、とする説明があり(これは俗説のようだが)、そこから転じて、品川の遊里には、牛で通う例があったことを紹介していた。牛は涎(よだれ)を垂らすが、牛に乗った客も居眠りをして涎を垂らす。いずれにしても、あまり見よい図ではない。牛に乗って見映えがするのは、天神様と草刈り小僧くらいだ。――こんなことを、喋っていた。
そこで、はたと当惑した。天神様は牛と縁が深く、いまも太宰府天満宮をはじめ、多くの天満宮の境内には「撫で牛」が置かれていたりする。天神様が牛に乗った像もあるらしい。しかし、草刈り小僧とは何だろう。いろいろ調べてもわからない。思い当たったのは、笛吹童子である。禅画の「十牛図」の第六図「騎牛帰家(きぎゅうきか)」には、牛に乗った笛吹童子が描かれている。金馬は、この笛吹童子と混同したのだろうか。
とはいえ、笛吹童子と草刈り小僧とでは、懸隔がありすぎる。博覧強記の金馬のことだから、牛に乗った草刈り小僧も、確かな根拠があるのかもしれない。「草刈り」の呼び起こす像が、あまりにも具体的だからである。もし、ご存じの向きがあれば、ぜひとも御教示を願いたい。