雑感

シンナーの臭い

投稿日:2024年7月26日 更新日:

「しばらくお休み」ということで、一月(ひとつき)近くブログを休止していた。右手中指がバネ指になり、ワープロの過度の使用が原因らしいと思ったからである。だが、しばらく休んでいても、症状はなかなか改善されない。そこで、やむなく近くの整形外科を受診した。
想像通り、腱鞘炎(けんしょうえん)との診断で、右の掌(てのひら)の指の付け根あたりに、ステロイドの注射をされた。年齢のせいなのかと医者に尋ねたら、必ずしもそうとは言えないという返事だった。とはいえ、これまでこんな症状が現れたことはないから、やはり年齢が関係しているように思う。
数日後、バネ指の症状は消えたが、注射の効果はせいぜい三ヶ月程度だという。不安ではあるが、ボチボチとワープロ使用を再開した。左手用マウスも右手用に戻した。

そこで、今回の標題である。目下、家の屋根の再防水と外壁の再塗装の工事をしている。そのため、先月末から一月ほど、家の回りにぐるりと足場が組まれている。窓も開けられず、猛暑の中、薄暗い密閉空間の中で、エアコンだけを頼りに過ごしている。

困ったのは、防水剤にしろ、壁の塗料にしろ、その塗布の際に、激烈なシンナー臭がすることである。もっとも、その臭(にお)いのもとをシンナーと呼んでよいかどうかはわからない。塗料の粘度を下げるための有機溶剤らしいが、それがシンナーとは限らないからである。だが、いちいち調べるのも面倒なので、ここではシンナーとしておく。そのシンナー臭が、容赦なく室内に侵入して来る。

私はこの臭いに極度に弱い。家内はさほど気にならないというが、私の場合はすぐに気持ちが悪くなり、頭が重くなる。どうやら、中学生の頃、庭の木戸にペンキを塗った際、溶剤のシンナーを吸い込み、熱を出して寝込んだことが潜在的な記憶として残り、それがシンナー臭への拒否反応を起こすらしい。

だが、そんな分析をしても、置かれた状況が変わるわけではない。それで、ひとまず家を抜け出すことにした。とはいえ、猛暑の中、長時間落ち着ける場所などすぐには見つからない。それで、小田急の無料パスがあるのを幸い、小田急線に乗ることにした。各駅停車(各駅停車を「緩行(かんこう)」と呼ぶ鉄道用語はまだあるのだろうか)を乗り継いで江ノ島に行き、相模大野に戻って、今度は小田原まで行った。
小田原では、以前のブログで記した温泉饅頭「箱根のお月さま」を売っていたので、買って帰った。帰りはやむなく快速急行や急行も利用したが、各駅停車の乗り継ぎを基本としたから、時間つぶしにはなったが、ずいぶんとくたびれた。

その翌日も、シンナー臭がひどいということが予(あらかじ)めわかっていたので、音楽会はないかと探してみた。僥倖というべきか、都響のスペシャル・コンサートが、午後にサントリーホールで開催されることを知った。
翌日朝、当日発売のチケットを入手し、早々と家を出て、昼飯も外で食べ、開演一時間も前から入場した。
これが、案外と聴きものだった。指揮は、ヤクブ・フルシャ。この人は、バンベルク交響楽団の来日時に聴いたことがある。
拾いものは、五明(ごみょう)カレンのヴァイオリンだった。ブルッフの協奏曲第1番を弾いたのだが、なかなかよい演奏だった。まったく知らないヴァイオリニストで、五明佳廉という名から、てっきり男だと思い込んでいた。プログラムの写真を見て、誤りを知ったような次第である。なかなか魅力的な美女である。豊かな表現力があり、繊細さと力強さを具えている。もう少し音量があればとも感じたが、それはないものねだりかもしれない。
もう一曲は、ブルックナーの交響曲「ロマンティック」。これは、ホルンに不満が残った。冒頭など、どこかおっかなびっくり吹いている。都響は、弦に比して管がやや弱い。なぜだろう。オーボエも音色に違和感を持った。

シンナー臭に悩まされなければ、このコンサートのことなど、まったく知らなかったから、これは思いがけない余禄(?)というべきか。

-雑感

Copyright© 多田一臣のブログ , 2025 AllRights Reserved.