このブログのタイトルの背景写真は、ドイツ、バイエルンのノイシュバンシュタイン城である。誰でも自由に利用できる画像の中から、息子がこれを選んでくれた。
ロマンチック街道の観光名所の一つである。私も20年ほど前、ドイツ滞在中に訪れたことがある。
狂王・ルートヴィヒ二世が、バイエルンの財を傾けて築造した城である。部屋ごとに、王が耽溺したワグナーのオペラをモチーフとする装飾が施されたりする。
もっとも、王はこの城に長く居住することはできず、城も未完成の状態だった。
王は、狂気を理由に廃王とされ、ベルク城に幽閉される。護送された翌日、シュタルンベルク湖で溺死しているのが発見された。自殺とされているが、主治医の一人も同時に溺死しており、自殺説には疑問が投げかけられている。
ノイシュバンシュタイン城の完成は、王の死後のことになる。
ノイシュバンシュタイン城の名は、邦訳すれば「新・白鳥城」で、ここには王の「白鳥の王子」への傾倒があるとされる。「白鳥の王子」にあたるのは、バレエ「白鳥の湖」の王子・ジークフリート、ワグナーのオペラ「ローエングリン」の主人公、聖杯守護の騎士・ローエングリンだが、王がよりつよく心酔したのは、後者だろう。
バレエ「白鳥の湖」とルートヴィヒ二世の死を重ね合わせた傑作がある。バレエ界の鬼才、創作・演出家ジョン・ノイマイヤーのバレエ「幻想―「白鳥の湖」のように」(ILLUSIONS LIKE “SWAN LAKE”)である。
ノイマイヤーは、アメリカ出身だが、長くハンブルク・バレエの芸術監督を勤めた。この作品も、ハンブルク時代、1976年の作品である。
バレエの主人公は、ルートヴィヒ二世。ただし、固有名は示されず、THE KINGと紹介されるのみである。
舞台は、王が城の一室に幽閉されるところから始まる。部屋の隅には、ノイシュバンシュタイン城のミニチュアが置かれている。
王の意識の中で、幻想と現実とが交互に現れ、時にはそれが複合したりもする。王は、絶えず何かに怯えており、それを形象するのが「影(THE SHADOW)」の存在である。
過去に見た「白鳥の湖」の記憶をたどるうちに、王自身がいつかジークフリートと重なる。王の婚約者ナタリアもまた、オディール(オデット)と重なる。舞踏会の場面で、道化の正体が「影」であることが明かされた途端、王は現実に引き戻され、幽閉された一室に戻っている。そこにも「影」が現れ、最後はその「影」に抱かれるように、水中にのみ込まれていく。
婚約者のナタリアは、実際の婚約者ゾフィー・シャルロッテがモデルだろう。王の母后と一緒に現れるレオポルドは、ルートヴィヒ二世の死後、摂政を勤めた叔父のルイトポルト公がモデルらしい。王の行動をつねに監視しているフロックコート着用の廷臣たちの存在は、どことなく不穏な感じをつよめている。
ドイツ滞在中の20年前は、ノイマイヤーとハンブルク・バレエの全盛期だった。残念なことに、ハンブルクでは、バレエを観る機会が得られなかった。もっとも、エヴァ・マルトンの「トゥーランドット」をそこで観たのだから、それはそれでよしとしなければならない。こちらはデル・モナコの演出だったように思う。
「幻想―「白鳥の湖」のように」は、後にドイツからDVDを取り寄せた。主演のイリ・ブベニチェクが実にすばらしい。「影」役のカーステン・ユングもいい。