退院して以来、夜10時に寝て、朝5時過ぎに起きるのが習慣になり、あれほど悩まされていた不眠症も、すっかり消えてしまった。
朝起きると、ラジオをつける。NHK第一放送である。6時直前の5分間、関東・甲信越の気象情報が流れる。その担当が、伊藤みゆきさんである。
伊藤さんの声は、ゆったりとしていて、やわらかい。しかも耳に心地よい。伊藤さんは平日の担当なので、土日は別人に代わる。ところが、どうもしっくりしない。別人はアナウンサーらしいから、原稿の読み方は、そちらの方がずっと上手である。ただし、どこか冷たくて、単調である。それゆえ、伊藤さんのような安心感は、別人からは得られない。伊藤さんは、ゆったりと話してはいるが、時間内にぴたりと収める。慌てたり、間延びさせることもない。実に見事である。
伊藤さんの気象情報の前に、「マイあさだより」というのがある。全国各地にいるレポーターが、いろいろな地域のさまざまな話題を聞かせてくれる。これも、なかなかおもしろい。知らないことがずいぶんあって、耳を傾けることもしばしばである。レポーターは、NHKが期間を定めて委嘱しているらしい。
ここで、ふと思い当たったのが、やはりNHK第一放送の「昼の憩い」である。調べてみると、いまも続いているというから、相当な長寿番組である。あれも、全国各地の農林通信員と称するレポーターが伝える、各地域の話題を取り上げていたように思う。「マイあさだより」は、だから、そのやり方を受け継いでいるともいえる。
ここからは脇道に入る。「昼の憩い」を特徴づけるのは、あのテーマ曲である。古関裕而の作曲だが、名曲の名に値する。あののんびりとしたテンポ、昔の農村ののどかな雰囲気、さらにいえば、農作業を中断して、お百姓さんたちが、おしゃべりをしつつ、畦道に座って、ゆっくりとお弁当を使っている光景が思い浮かんで来る。
「昼の憩い」のテーマ曲に並ぶ曲は何かと、さらに連想が及んで考えていたら、これはテレビになるが、やはりNHKの「新日本紀行」のテーマ曲に思い当たった。富田勲の作曲である。このテーマ曲は、日本の管弦楽作品の中でも、屈指の名曲といえる。
Wikipediaで調べると、「新日本紀行」は、1963年10月から1982年3月まで放映されたという。これまた、なかなかの長寿番組であった。いまも、時折NHKのBSで、昔の映像が紹介されることがある。これを見ていると、初期の頃、画面が白黒であった頃の映像(画面比率は4:3であった)の方が、ずっとおもしろい。映像が新しくなるにつれ、地域社会がそれぞれにもつ独自性が失われ、すべてが画一化されてしまった現実が、時折、顔をのぞかせるようになるからである。
「新日本紀行」の放映がなくなってから、あのテーマ曲が聴きたくなって、「新日本紀行 富田勲の音楽」と題するCDを買い求めたことがある。演奏は、大友直人指揮の東京交響楽団である。ところが、この演奏を聴いてひどくがっかりした。冒頭の金管楽器の咆哮の鋭さが消え去っている。曲全体もどこか生温(なまぬる)い。これはどうしてなのか。大友の音楽性によるのだろうが、これは少々いただけない。