サクマ式ドロップスを製造する佐久間製菓が、来年1月で廃業するという。一方で、サクマドロップスを製造するサクマ製菓には、そうした動きは見られず、これまで通り営業を続けるらしい。
ドロップスは久しく口にしないが、私は、小さい時分から、今回廃業するサクマ式を好んでいた。ハッカの味がまったく違うからである。見た目も違う。それで、その白いハッカが、あと何粒残っているのかを気にしながら、味わっていた。
廃業の報道でも触れられていることだが、このドロップスは、サクマ式が元祖である。しかし、その元祖の佐久間製菓は、戦時中の原料統制等によって、一時廃業してしまう。戦後、その佐久間製菓の関係者が別会社として再興したのが、サクマ製菓になるが、一方、元祖の佐久間製菓も、ほぼ同時期に再興を果たす。その結果、二社が競合し、訴訟問題も生じたが、元祖がサクマ式ドロップスを、もう一方がサクマドロップスを名のることで決着し、現在に至っているという。
こうした競合で、よく似た事例は、ウィーンのザッハー・トルテであろう。その名称からもあきらかなように、もともとは、ウィーンのホテル・ザッハーが創り出したチョコレート・ケーキである。ところが、そのホテル・ザッハーが、財政難に陥った際、菓子店のデメルが、資金提供をする代わりに、ザッハー・トルテの製造の権利を受け継いだという。
ところが、ザッハーもいつのまにか製造を始め、それでやはり訴訟問題になったらしい。最終的には、どちらも製造してよいという決着になったようである。ただし、違いはあって、ザッハーのものは、アンズのジャムが表面(チョコレートのコーティングの裏側)だけでなく、ケーキの真ん中にも塗られている。
ザッハーのものは、ウィーンで食べたことがあるが、日本では、デメルのものしか手に入らないようである(きちんと調べてはいない)。ただし、どちらも、甘さは強烈である。
もう一つ、訴訟がらみの日本の銘菓について書いておく。堺の名物、芥子餅(けしもち)である。千利休の頃からの銘菓だというのだが、これにも「本家小嶋」と「小島屋」の二つがある。
この二つの店だが、本家が財政的な事情から、屋号を「小島屋」に譲り渡したらしい。しかし、その後(いつのことかは不明だが)、本家も家業を再興し、芥子餅の製造を始めたらしい。これもやはりどこかで訴訟沙汰となり、結果として、どちらも芥子餅の販売ができるようになったのだという。
「本家小嶋」は、堺の小さな店一軒のみだが、「小島屋」は手広く営業をしていて、大阪近辺のデパートや駅などでも買える。
その味だが、これは断然、「本家小嶋」に軍配が上がる。もっとも、味わうためには、堺まで足を運ばなければならないが。なお、「本家小嶋」には、ニッキ味の肉桂餅もあり、これも絶品である。芥子餅も肉桂餅も、久しく食べていない。