雑感

昔のピアノ

投稿日:2025年10月11日 更新日:

昨夜(10月10日)、王子の北(ほく)トピアで催された演奏会「上野通明&小林道夫デュオ・リサイタル」を聴きに行った。
同行のN氏が「お祖父さんと孫の演奏会」と評したが、なるほど29歳の上野に対して小林は当年92歳だから、その通りかもしれない。この年齢で現役の演奏家を続けるというのは、いまの自分の状態を振り返ると、驚きでしかない。

しかし、昨夜の演奏会で、もっとも興味を引かれたのは、その使用楽器である。そこに演奏会のねらいの一つが置かれていたことを、プログラムの記事(舩木篤也氏執筆)から知った。五弦のチェロにチェンバロとフォルテピアノが、曲目(バッハ「無伴奏チェロ組曲第6番」、シューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」、バッハ「ヴィオラ・ダ・ガンバソナタ第3番」、ブラームス「ヴァイオリンソナタ第1番」)に応じて用いられた(断るまでもないが、「ヴァイオリンソナタ」は、チェロでの演奏である)。

ここで記したいのは、そのフォルテピアノである。フォルテピアノとは、現代のピアノに対して、18世紀から19世紀前半のピアノを区別する際の呼び名という。もっとも、現代のピアノも、ピアノフォルテ(フォルテピアノ)を省略した名ではあるのだが。
今回使用されたフォルテピアノは、プログラムには、「ヨハン・クレーマー製作/1825年 ウィーン」とある。ベートーヴェンの死の二年前に製作されたピアノである。

私はこれまで、古いピアノを見たことはあっても、演奏会の場でその音を聴いたことはなかった。だから、それを聴くだけでも、この演奏会に出向いた価値があると思った。
その音だが、音量はずいぶんと小さい。むろん、フォルテピアノなのだから、チェンバロよりは大きい。音色になると、いまのピアノほどは響き(あるいは深み)が感じられない。「ああ、これがベートーヴェン時代の音なのか」と、まずは思った。その上で、このピアノで、ベートーヴェンのソナタ、「ワルトシュタイン」や「ハンマークラヴィーア」、そうした曲を弾いたら、一体どんな音がするのだろうと、そこが知りたくなった。
現代のピアノで演奏するのとは、ずいぶんと異なる印象を覚えるに違いない。さらには、ピアノ協奏曲だとどうなるのか。管や弦とどう向き合うことになるのか。

一つ確かめたかったことがある。鍵盤の数である。ピアノの鍵盤は、ベートーヴェンの存命中に次第に増えていくが、現在の88鍵が標準となるのは、19世紀後半のこととされる。すると、昨夜のフォルテピアノは88鍵なのかどうか。外観はやや小ぶりにも見えたから、それよりは少なかったのだろう。もっとも、プログラムに鍵盤の数は記されていないから、そこはわからない。

古楽器の演奏は、時折聴くことがあるが、今回のような古いピアノを使用した演奏は聴いたことがなかった。どこかで、ピアノソナタや協奏曲の演奏会はないものかと思う。

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