以前のブログ「スマホを強制する社会」で、こんなことを書いた。
昨今は、コンビニなどでも、スマホで決済する客が多くなり、私のような現金払いは、いまや少数派かもしれない。スマホ決済は、銀行預金などと連動しているはずだから、年金生活者の私としては、なかなか利用する気にはなれない。手許の現金がいくらあるかの確認ができなければ、日々の生活が成り立たないからである。右のようなことを書いた。
ところが、先日、ある報道に接して驚いた。社員の給料を、電子マネーで支払う会社が現れているというのである。給与デジタル払いというらしい。
給与デジタル払いとは、電子マネー(デジタルマネー)を、会社と従業員の資金移動業者の口座間とで移動することにより、賃金(給与)を支払う制度のことだという。
2022年11月、厚生労働省が、給与デジタル払いの導入に関する労働基準法の改正省令を公布し、昨年4月からすでに施行され、デジタル払いに対応した資金移動業者がいくつか指定されたらしい。
この資金移動業者は、銀行とは異なる。もっぱら電子マネーの口座を管理する業者である。給与は、銀行振込のように、その業者に設けた口座に振り込まれることになる。
ここで、問題としたいのは、そのことではない。その資金移動業者の筆頭に挙げられている、PayPay株式会社の名、あるいは「PayPayでの支払い」といった言葉への違和感である。PayPay株式会社は、ソフトバンクとLINEヤフーの合弁会社で、スマホを用いたQRコード決済(電子マネー決済)では、もっとも利用者の多い会社らしい。コンビニなどでも、スマホのバーコードを読み取らせて、「PayPayでの支払い」をする場面に、しばしば出会う。
しかし、PayPayとは、何と安っぽい名前なのか。payが支払うことを意味する英語であることはわかるが、日本語でそれを表記すれば「ぺいぺい」で、これは少し前までなら、相手の価値を低く見て、馬鹿にする言葉だった。「あいつは、ぺいぺいだ」のように。『日本国語大辞典』には「地位の低い者や技量の劣っている者をあざけっていう語。また自分を卑下していう語」とある。なるほど、「私は、まだぺいぺいで」と、自分について、謙遜の意味で用いることもある。初出例を見るかぎり、もともとは芝居の世界で、駆け出しの、下手くそな役者を嘲る言葉だったらしい。語源はわからない。
それゆえ、私などには、PayPayという言葉は、そうした意味にしか聞こえない。だから、そんな胡乱(うろん)な言葉を、なぜ会社名とし、電子マネー決済のような、――大袈裟にいえば資産の移動にかかわるような場面で、「PayPayで支払います」などと言ったりするのかがわからない。実に気持ちが悪い。
しかし、考えて見ると、こんな名を付けた人たちは、おそらく「ぺいぺい」という日本語を、耳にしたことがないのだろう。これを利用する人たち、おそらく若い年代の人たちが多いのだろうが、彼らもまた、そんな言葉を知らないに違いない。私など、「PayPayで支払います」などとは、とてもではないが、恥ずかしくて言えない。
つまるところは、ここでも、国語力の低下という現実を指摘せざるをえないのだが、それを言ったところで、もはや年寄りの愚痴にしか聞こえないのだろう。已矣哉。