雑感

台風の進路予測

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近年の地球温暖化、それに伴う異常気象のゆえか、大型台風の襲来が増えているように感じる。
私の家のあたりは、三方を高台に囲まれた低地なので、ハザード・マップを見ても、浸水の警戒地域に指定されている。事実、昭和33年(1958年)の狩野川台風では、床上浸水の被害に遭っている。小学生の時のことだが、その記憶はいまも鮮明に残っている。昔の家の壁には、水に浸かった跡が、ずいぶん後まで残っていた。下水道が整備されて以降は、そうした被害を免れてはいるが、台風の襲来は、やはり恐ろしい。

そんなこともあって、この時期、台風の進路がとても気になる。ところが、気象庁の発表には、いつも苛立(いらだ)つ。進路予測の判断が遅すぎるからである。日本列島に台風が近づいても、ほんの少し前でないと、進路についてなかなか発表しない。近年は、台風に発達しそうな熱帯低気圧についても、発表するようにはなったが、それもかなり遅い。好意的に見れば、正確を期して、慎重にということなのかもしれない。
困るのは、報道機関(天気予報の番組)の情報も、気象庁の発表にすべて右へ倣(なら)えであることである。そこから、まったく踏み出さない。
調べてみると、気象庁の統制を外れて、独自に気象予測を行うことは、法令上、できないことになっているらしい。「気象業務法」第十七条に、その規程があり、違反すると50万円以下の罰金が科せられる。

なるほど、勝手に気象予測を行うことは、公益を阻害し、場合によっては、多数の命を危険に曝(さら)す虞(おそれ)もないとはいえないから、法の趣旨は、わからなくもない。
ただし、気象予測に制約が大きいのは、戦前の意識の名残がどこかにあるからではないか。気象情報は、重大な軍事機密だったからである。作戦遂行のためには、気象の的確な把握は必須である。それゆえ、戦前の陸・海軍には気象部があり、気象観測、気象予測の任にあたっていた。そこでの情報は、当然ながら統制の対象となる。そうした意識が、いまもなおどこかに潜在しているのではあるまいか。

なぜ、こんなことを述べるのか。私は、台風の進路予測は、気象庁の発表に頼っていないからである。以下の三つを利用している。すべて外国の機関が、インターネット上に公表している情報である。外国の機関ゆえ、「気象業務法」には抵触しない。

①joint typhoon warning center(JTWC)
アメリカ、ハワイの米軍合同台風警報センター(JTWC)が発表する台風情報で、気象庁より、ずっと早くに予測を知ることができる。JTWCも、本来は、軍事作戦遂行のための基本情報を得ることを目的とする機関のようだが、有り難いことに、その情報は誰でも見ることができる。
②ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)
1975年に設立された、ヨーロッパの中期気象予測を加盟国に配信する国際機関である。本部はイギリスにある。台風情報は、世界全体のものが見られる。ChartsのLatest tropical cyclonesのところに、その進路等の情報、予測が、図とともに示されている。
③Windy
世界全体のあらゆる気象情報、予測を地図上に展開しており、それらを詳しく見ることができる。情報、予測は10日先にまで及ぶ。
Wikipediaによれば、Windyは、「インタラクティブなリアルタイム天気予報サービスを世界中に提供するチェコの企業」であるという。さまざまな機関が集めた情報を統合、分析し、その結果をリアルタイムで配信している。有料の情報もあるようだが、無料のところだけで、充分に役立つ。

そこで、この①②③だが、①②が台風の進路予測をもっぱらとするのに対して、③はあらゆる気象情報(風、雲、雨、気温等々)を含んでおり、しかも特定の場所(たとえば、世田谷区)の、10日先までの情報が、更新を重ねつつ随時示されるので、使い勝手が実によい。

そこで、問題となるのは、情報の正確性である。台風の進路について述べるなら、遺憾ながら、気象庁の情報より、①②③が優ると感じることが少なくない。しかも、気象庁が発表するかなり前の段階から、①②③はその進路を予測している。

日本の報道機関(天気予報の番組)が、台風がかなり接近し、気象庁がそれを発表しないかぎり、その進路について触れようとしないのは、まことに不思議である。戦時下の統制を、想起してしまう。気象庁は、戦前の大本営なのだろうか。なるほど、いい加減な予測は、公益を阻害する。しかし、①②③のような予測は、報道機関が独自の判断で公表してよいのではあるまいか。「気象業務法」との兼ね合いが難しいのだろうが、それも含めて、気象庁の天下り的な体質が、それを妨げているようにも思える。はたしてどうなのだろう。

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