先週の学習者向けの英字新聞“the japan times alpha”に、着せ替え人形リカちゃんの特集記事があった。
その記事によると、リカちゃんは、1967年に発売され、現在まで6000万体以上が売られているという。発売元は、現在はタカラトミーだが、もともとはタカラ単独の商品だった。
そのリカちゃんの人気が再燃しつつあるという。中年層の女性たち、記事にはadult fans とあるが、そうした世代の女性たちが、着せ替え用の服やアクセサリー、さらには住まいなどを手作りし、それを画像にしてSNSに配信し、多くのフォロアーを得ているのだという。リカちゃんをそうやって相手にすることは、自由に外に出られない、コロナ禍中の不満の捌(は)け口の一つでもあるという。
私は、リカちゃんには案外と詳しい。娘に買ってやったことが始まりだが、そこから母親が香山織江という名のデザイナー、父親がピエールという名のフランス人指揮者であることを知った。その後、双子の妹、ミキちゃん、マキちゃんが生まれ、さらにその下に、三つ子の弟妹、かこちゃん、みくちゃん、げんくんが生まれている。織江さんは、あわせて六人の子どもの母親であったことになる。これらの弟妹たちも、みな家にある。
リカちゃんは、かわいい。もっとも、発売当初のものは、やや細面で、写真で見るかぎり、あまり親しみがもてない。少しずつ手を加えて、誰にも愛されるような顔に作り替えていったのだろう。リカちゃんは11歳の年齢だという。
ここで先の記事に戻ると、その見出しは、リカちゃん(Licca-chan)に、“Japan's answer to Barbie”という説明を加えている。
リカちゃんは、やはり着せ替え人形であるBarbieに抗するかたちで、日本で大人気を博した人形であったことがわかる。
Barbieは、アメリカの人形で、その発売は1959年。リカちゃんよりもやや大きく、八頭身で、glamorousな体型を特徴とする。アメリカ国内のみならず、アメリカ文化を積極的に受け容れた国では、ずいぶんと売れ行きがよかったらしい。
ところが、そのBarbieは、日本ではまったく売れなかった。Barbieのglamorousな体型が、好まれなかったからである。一時、Barbieの後継のJennyが、リカちゃんと同じタカラから販売されたが、これも売れ行きは不振だったらしい。体型もそうだが、顔立ちそのものが、リカちゃんの親しみやすさに、及ばなかったためだろう。私が見ても、かわいいとはとても思えない。むしろ好きになれない。その印象は、ディズニー動画のプリンセスものの主人公(たとえば、オーロラ姫、白雪姫、アリエルなど)と、どこかつながるところがある。私など、これらの顔立ちには、すべて違和感を覚える。アメリカ人は、あれをかわいらしい、あるいは美しいと感じるのだろうか。
アメリカ文化を無批判、かつ一方的に受け容れて来た日本が、いかにもアメリカ的なBarbieを拒絶し、“smaller and less glamorous”なリカちゃんを選んだというのは、文化史的に見ても、とても興味深いことだと思う。なお、Barbieの身長は30㎝、リカちゃんは22㎝という。リカちゃんの父親が、アメリカ人でなく、フランス人であることにも、注意すべきかもしれない。
ところで、精神科医で評論家を標榜する「香山リカ」なる人物がいる。リカちゃんとまったくの同姓同名である。筆名のようだが、「香山リカ」を名のるなど、図々しいにも程がある。僭称といってもよい。一体、誰の許しを得て、名のっているのか。タカラトミーの許しが仮にあったとしても、私には許せない。余計なことだが、最後に付け加えておく。