雑感

弘法山

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二松学舎を退職して、年金暮らしになった。四年前のことである。定まったところに通うという日常が断ち切られてしまったので、代わりにハイキングでもしようかと思い立った。
小田急線の無料パスがあるのを幸い、その沿線で、どこか手頃な山はないかと探してみた。そこで見つけたのが弘法山である。

弘法山は、はるか昔、小学校三年生の遠足で行ったことがある。その時の古い写真は、いまも残っている。集合写真のほかに、弁当を食べている写真もある。当時の遠足は、希望する母親なども同行できたようで、一緒に写真に収まっている。いまなら、とても考えられないことだろう。高学年になってからの遠足の写真も、同様である。
その頃は、町内に一軒くらいは写真館があり、そうした遠足の写真も、その主人(あるじ)が出張して撮影していた。それで十分商売になっていたのだろうが、いつ頃まで続いていたのか。

弘法山へは、秦野(はだの)駅で降りる。秦野は、いまはハダノと読むが、この駅の旧名大秦野は、オオハタノと濁らずに読んでいた。ハダノとハタノ、どちらが正しいのか。
類似の例に、西武池袋線のエコダ駅(江古田駅)と、都営地下鉄大江戸線のシンエゴタ駅(新江古田駅)がある。練馬区がエコダで、中野区がエゴタだと聞いた覚えがあるが、どういう来歴があってのことなのか、なかなかややこしい。秦野の場合は、どうなのだろう。市の名はハダノである。

秦野駅からしばらく歩いて登山口に着く。そこから、浅間山、権現山を経て、弘法山に向かう。権現山には、立派な展望台があり、富士山がよく見える。遠くに相模湾も見える。
弘法山には、弘法大師を祀った大師堂や、鐘楼がある。このあたりの地域には、弘法大師巡錫(じゅんしゃく)の伝承があり、その修行の場が弘法山であったという。

弘法山からは、善波峠との分岐を経て、尾根伝いに吾妻山に向かう。途中、山道の左側すぐのところにラブホテルの建物が見られたりするのは、ご愛敬というべきか。
吾妻山を降りて、鶴巻温泉「弘法の里湯」を目指す。秦野市の公営温泉施設である。途中には、升田幸三の「陣屋事件」で知られた陣屋旅館があり、入浴はそこでもできる。いまも将棋のタイトル戦の会場になっているという。ここは、食事込みが原則だから、安くはない。「弘法の里湯」は、65歳以上なら、600円で済むから(秦野在住者はもっと安い)、もっぱらこちらを利用する。二時間程度のハイキングではあるが、温泉で汗を流せるのは、実に有り難い。

「弘法の里湯」にも食事処はあるが、鶴巻温泉駅の近く、温泉病院の側(そば)の小さな定食屋「天安」で、お昼にする。日替わり定食など、なかなか充実している。値段も手頃である。
秦野市は、落花生が名産で、鶴巻温泉駅前には、豆菓子の専門店もある。「豆芳(まめよし)」という。土産を買って帰ることもある。
帰りの電車では、ついうつらうつらとするが、それがまことに心地よい。

こんな次第で、二松学舎の退職後、毎月二度ほど、弘法山のハイキングを続けていた。
ところが、一年後、コロナ禍に見舞われることになった。閉居暮らしを余儀なくされ、ハイキングも中止せざるを得なくなった。それゆえ、この三年ほどは、弘法山には出向いていない。
コロナ禍も少しずつ終熄の兆(きざ)しが見えて来たから、弘法山通いもそろそろ復活させようかと思っている。

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