先のブログ「平曲への疑問」の補遺になる。
先のブログでは、狂言の「平曲」について記したが、少し気になることがあったので、「狂言記」を開いてみた。新日本古典文学大系『狂言記』である。
「狂言記」(正編・外編・続編・拾遺編)には、座頭狂言が六曲収められているが、驚いたことに、「平家節」を語る場面があるはずの「丼礑(どぶかっちり)」「猿替勾当(さるかえこうとう、「猿座頭」に同じ)」「鞠蹴座頭(まりけざとう、「鞠座頭」に同じ)」を見ると、その部分が完全に抜け落ちている。「つんぼ座頭(「不聞座頭(きかずざとう)」に同じ)」のみ、盲人の菊市(きくいち)が、聾者(ろうしゃ)の太郎冠者を嬲(なぶ)る内容の「平家節」を語る場面があるが、その「平家節」は、一ノ谷合戦を捩(もじ)った、狂言の「平家節」とは、まったく違う簡単なものである。ただし、曲節がどのようなものであったのかは、現行の「不聞座頭」を見たことがないので(障害者差別の問題を含むから、今後の上演もまず不可能だろう)、想像することもできずにいる。前のブログに記したように、「昆布売」にも「平家節」があるが、「狂言記」(外編)では、謡節、浄瑠璃節、小歌節はあるものの、「平家節」は抜け落ちている。
「狂言記」に、例外的な「つんぼ座頭」を除き、「平家節」がすっぽり抜け落ちていることを、どう考えるべきか。「狂言記」は、読み物として刊行された狂言台本で、近世初期の群小庶流派の上演台本をもとにしているらしいが、ならば、この問題は、「狂言記」の背景を考える上でも意味があることなのではないか。
疑問のままではあるが、先のブログの補遺として示しておく。