雑感

近未来の科学技術

投稿日:2022年10月13日 更新日:

前にも書いたように思うのだが、英語力の衰えが著しいので、しばらく前から、ジャパンタイムズが発行している、英語学習者向けの週刊新聞“alpha”を購読している。
その9月30日号が、近未来の科学技術についての特集を組んでいる。知らないことばかりだったので、ずいぶんと目を開かされた。同時にまた、その進もうとする方向に、疑問を覚えないでもなかった。

3Dプリンターの技術が、ここまで進んでいることに、まず驚かされた。その技術を用いて、住宅まで作られるようになったという。すでに、小さなカプセル状の住宅が、販売されているらしく、その値段は、300万円だという。写真で見る限り、生活空間としては小ぶりに過ぎるように思われるが、別荘程度の利用なら、あるいは可能なのかもしれない。24時間以内に建設可能というのも、セールスポイントらしい。

この事業展開を進めている会社のCOOの言によれば、いまの住宅建設に要する費用は尋常ではなく、多くのサラリーマンは、人生の大半を、その返済に費やしている。だが、この技術を用いた住宅建設を進めていけば、近い将来には、100㎡ほどの住宅を、自動車一台分程度の価格で、提供できるようなるという。借財に追われる生活を不要にする、というのが、その売り文句らしい。なるほど、もっともな主張であり、共感も覚えるが、その住宅が、現実の生活空間として、うまく機能しうるものなのかどうか、記事からでは判断できない。3Dプリンターの利用は、医学の分野でも、すでに始まっているらしく、この特集記事には、人工骨製造の紹介もある。

培養肉の技術も、近年進んでいるらしい。培養肉とは、大豆などを利用した「肉もどき」とは異なり、肉そのものの細胞を培養・増殖することで作られるので、味や食感は、本物の肉と大差ないのだという。
近年、牛や豚などの家畜の成育には、いわゆるSDGsの視点から、さまざまな問題のあることが指摘されている。さらに、日本の場合、家畜の飼料の大半は、輸入に頼っているという。それゆえ、食料の自給度を高める上でも、培養肉を生産することは、たしかに理に適っている。衛生面でも、本物の肉より、安全性はずいぶんと高いらしい。
もっとも、培養肉がどんな味なのかは、食べてみたことがないから、わからない。焼き肉の写真が掲載されているが、正直なところ、あまりうまそうには見えない。
ずいぶん前のことになるが、台湾に行った際、素食(精進料理の類)の味が気に入って、何度か続けて食べたことがある。それもまた「肉もどき」の類かもしれないが、培養肉は素食よりも美味なのかどうか。

以上の記事は、近未来の科学技術として、肯定的に受けとめたのだが、疑問と思われるものもある。
たとえば、空飛ぶ自動車である。実用化の一歩手前だというのだが、とてもではないが、そんなものに空を勝手に飛ばれては困る。航空機事故番組(「メーデー!」)の熱心な視聴者からすると、技術的にはいくら可能ではあっても、事故の恐れ(空中からの落下、空中衝突)は、排除できないように思う。その運用に際しては、どこかで人間が関与するからである。航空機事故の多くは、人間の些細なミスによって生じている。いま飛んでいるドローンなどにしても、いい加減なものも少なくないから、機体そのものの安全性についても信用することができない。

移動手段では、真空チューブと磁気浮上技術とをあわせた高速鉄道の開発も進んでいるという。開発者の一人が、イーロン・マスクだという。日本でも、リニアモーターカーの試験運転が行われているが、そうした高速鉄道など、私は利用したいとは思わない。SF小説ではないが、瞬時に、どこにでも移動できる時代が、いずれはやって来るのだろうか。

さらに、疑問を感じたのは、メタバースである。コンピューターの中に構築された三次元の仮想空間(ヴァーチャルな空間)のことというが、現実空間との交錯も想定されているらしい。仮想空間では、アバターとの交流も可能だというのだが、その先には、何が待ち受けているのか。ずいぶん前の映画“Matrix”に描かれたような世界がどこかで現実化するのだとすると(これは考えすぎか?)、ひどく恐ろしい。

ここで疑問を感じた科学技術の進展とやらは、人間社会のありかたを考えていないように見える。社会をどのようなものとして捉えるのか、という視点が欠落している。その出発点が、まずは、「科学技術ありき」にあるからだろう。
科学技術は、一方向にしか進めない。後戻りができない。一旦手に入れた科学技術は、捨て去ることができない。核兵器の製造など、それをやろうと思えば、いまやどこの国でも簡単にできる。

真空チューブの高速鉄道など、移動時間の短縮が目標なのだろうが、そんなものに乗ることに、どれだけの意味があるのだろうか。私にはまったくわからない。メタバースにしても、その利点がどこにあるのか、これもわからない。そうした技術が、社会に何をもたらすことになるのか、開発者はそのあたりを十分にわきまえているのだろうか。

同じ記事に、やはり最新の科学技術の成果として、成層圏旅行が可能になったことが紹介されている。SF小説の世界では、宇宙旅行は夢なのかもしれないが、月や火星が、人間の住める世界になるとは、とても思えない。
ここで、突然、中学の頃、『月は地獄だ』という題のSF小説を読んだことを、思い出した。『SFマガジン』の連載だったような記憶がある。空気と食料のない月は、やはり生活することのできない「地獄」といえるだろう。

これは、果たして、老いの繰り言なのかどうか。

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