また昔話である。子どもの頃、汽車に乗っての夏旅では、車内販売のアイスクリームを買ってもらうのが、とても楽しみだった。
いまも忘れられないのが、卵黄の味と香りのするカスタード・アイスである。色も黄色みがかっていて、値段も高かった。もっとも、カスタード・アイスとは名のっていなかったようにように思う。
そのアイスクリームがいつの間にか消えてしまった。高級ではあるが、卵黄の味と香りのするアイスクリームではなくなってしまった。なぜそうなったのかは、わからない。
前に「成城石井」のことを書いたが、そこでもカスタード・アイスを売っていた(昔の成城の店の話である。いまの「成城石井」のことではない。念のため)。ハーゲンダッツのものである。輸入品だったかもしれない。買って食べてはみたが、汽車の中のものとは、味が微妙に違う。過去への思い入れが強すぎたためかもしれない。だから、もう一度、車内販売のカスタード・アイスが食べてみたい。
アイスクリームついでに、もう一つ。これもずいぶん以前、アメリカからアイスクリームのチェーン店がいくつか進出してきたことがあった。サーティーワンとか、業態は変わったが、ディッパーダンなどはいまも残っている。
そのディッパーダンに、リコリス(甘草)のアイスクリームがあった。真っ黒な色で、独特の甘みがあった。この味が好きで、よく渋谷まで買いに行った。渋谷区役所の近くだったように思う。
そのリコリスのアイスが、突然姿を消した。売れ行きがよほど悪かったのだろう。リコリスは、欧米人には好まれるが、日本人には抵抗が大きいらしい。真っ黒な色も不人気の理由らしい。以後、リコリスのアイスは絶えて見ない。何度も通った沖縄でも、ブルーシールの店などをいろいろ探したが、そこにもなかった。それゆえ、これも私にとっての懐かしの味になる。
カスタード・アイスのことを書いていたら、突然、ミルクセーキのことを思い出した。ミルクセーキも、街中(まちなか)の喫茶店では、昨今、まず見ない。
以前は、家でもよく夏に作った。卵黄と砂糖を十分に攪拌(かくはん)し、そこにバニラエッセンスを垂らし、冷やしたミルクを注ぐ。それだけの飲み物である。ボールに割った卵から、卵黄だけをうまく取り出すのが、コツになる。忘れていたが、この猛暑、今日は久しぶりに作ってみようと思う。