朝起きて、テレビを付けたら、たまたま「チコちゃんに叱られる」をやっていた。滅多に見る番組ではないのだが、缶詰になる果実とならない果実がある理由を解説していたので、思わず見てしまった。柿の缶詰がなぜないのかが、気になっていたからである。
缶詰にするには、加熱処理が必須とされる。だが、高温だと味は悪くなる。ボツリヌス菌などが繁殖できないPH4.6以下の果実なら、温度を低く設定できる。柿などはそれを超える値なので、缶詰には不向きなのだという。
果汁飲料の場合も、同様の加熱処理が必要とされるから、それにも向き不向きはある。ところが、大昔、成城のスーパー・マーケットで、柿のジュースの缶詰を見つけて、買って飲んだことがある。それが案外とおいしかった。「チコちゃんに叱られる」を見ていて、突然そのことを思い出した。そのスーパー・マーケットが、成城石井である。もっとも、いまはその缶詰は置いていない。
その頃の成城石井は、驚くような高級スーパーだった。もともとは小さな商店だったようだが、成城という地の利をうまく活かしたのだろう。輸入品も、独自の仕入れルートがあったのか、海外の高級酒がずらりと並んでいた。Royal Householdなどという、英国王室御用達のスコッチも置いてあった。見たことのないようなチーズもあって、しばしば買いに行ったりした。ハーゲンダッツのアイスクリームも輸入品があり、これが実においしかった(国産品とは味が違う)。暮れにはそこで、新年の食料をいろいろと調達したものである。
ところが次第に、おかしな雲行きになって来た。近くの惣菜屋(?)が、そこにおかず類を卸していて、これがなかなか結構な味だったのだが、いつのまにか姿を消してしまった。割烹着姿の小母(おば)さんが、棚に商品を並べていた姿を思い出す。契約打ち切りとかがあったのかもしれない。
そのうち、牛丼チェーン店の牛角の傘下に入ったという噂を耳にしたが、そのあたりから店の雰囲気が少しずつ変化したように思う。
関西に進出したり、都内のあちこち店を出すようになったが、そうなると高級スーパーの印象はいつか薄れてしまった。紀ノ国屋と同程度になったといえばよいのかもしれない。成城駅前の小田急OXとは、歴然とした差があったのだが、いまではさして変わらなくなってしまった。だから、わざわざ電車に乗って、成城石井まで足を伸ばすこともなくなってしまった。
あの頃の成城は、どこか違った街という印象がつよかった。アルプス洋菓子店の階上で、ケーキを食べたりすると、とても豊かな気分になったものである。風月堂も小さな店だが、余所(よそ)の風月堂とは、まったく別の感じがした。住宅街の真ん中にある、とんかつの「椿」は、いまでも営業しているのだろうか。東宝(?)のカメラマンだった方が、退職して始められた店である。駅の反対側にあった洋菓子店マルメゾンは、どうやら閉店したらしい。これも名店だった。
いまの成城は、相変わらず高級住宅街ではあるが、印象としてはどこか平準化されてしまったような感じがする。そのことを、成城石井の変化がよく示しているように思う。