最近、テレビの食事場面を見ていて、ひどく気になることがある。皆が手を合わせて「いただきます」とやるのである。「孤独のグルメ」では、五郎が合わせた手の親指と人差し指の間に箸を置いて、「いただきます」とやっている。昔の食事場面では、こんなことはまずなかった。私自身にしても、「いただきます」とはいうが、手を合わせたことは一度もない。おもしろいのは「おかしな刑事」で、他の出演者一同が手を合わせているにもかかわらず、伊東四朗だけは絶対にそれをやらない。おそらく、伊東にも手を合わせる習慣がなく、その動作につよい拒絶感があるのだろう。伊東流の美学には違いないが、それを貫き通す伊東がますます好きになった。
いったいどこから手を合わせる習慣が生まれたのか。宗教的な背景があるのかもしれないが、よくわからない。おそらく、誰かがよいことだとして始め、幼稚園や保育園、そして小学校や中学校の給食の場を通して少しずつ広まったのではあるまいか。
私にとってはまことに気持ちの悪い習慣だが、これに正面から異を唱えるとなると、なかなか難しい。手を合わせるのは感謝の姿勢だといわれれば、そうですかと引き下がるしかない。ただ、私は今後も手を合わせることはしないと思う。マナー違反だ、などという馬鹿が現れないことを願うばかりだが、得てしてそうしたことになりがちなのが世の常で、そこがまことに恐ろしい。これは、あらゆることについていえそうである。